For Researcher 研究者のみなさま

J-PDXライブラリーにおけるPDXモデルの作製工程

J-PDXライブラリーでは、NOGマウスを用いてPDXを作製しており、生着率はがん種による多少の違いはあるものの、全体で約30%となっております。患者さんの腫瘍を移植してからマウスで腫瘍が生着するまでの期間は、その後の継代から生着までの期間に比べ長い傾向にあり、PDXモデルとして安定する3継代を完了するまでに平均して7ヶ月、増殖の遅い腫瘍では1年以上かかる場合もあります。継代を行う際には、研究利用のため不凍液に浸した再移植用組織、核酸や蛋白解析のための新鮮凍結検体、病理解析などのための病理ブロックを作製いたします。

*J-PDXライブラリーでは患者腫瘍を最初に移植したマウスを1継代目(Trans Generation 1, TG1)と表記しています。継代を重ねるごとにTG1, TG2, TG3と表記しています。他のPDX供給機関ではF0, F1と表記している機関もありますが、TG1がF0に相当します。

”PDXの樹立工程”

PDXモデルを用いた薬効評価の流れ

PDXを用いて抗がん薬のスクリーニング(薬効評価)を行う場合には、再移植用組織を再びマウスへ移植し、増殖した段階でさらに複数のマウスへ継代移植します。PDXモデルでは腫瘍の不均一性が高いため、複数のマウスへ移植した場合に増殖速度がマウス(腫瘍)ごとに大きく異なります。このため、我々は、実際に薬効評価で必要なマウス数の1.5〜2倍のマウスへ移植し、投与開始時点で腫瘍体積による完全無作為割り付けを行い、実験を開始しています。例えば、対照群と治療群でそれぞれ6匹ずつ(計 12匹)のマウスが必要な場合は、18〜24匹に移植し、腫瘍体積が揃った12匹を用います。薬効評価に使用しなかったマウスは、他の実験や保存検体を作製するために用います。なお、こちらでお示しした流れは代表的な利用方法であり、実験内容や使用するPDXによって評価方法や工程が異なります。

”PDXを用いた薬効評価図”

J-PDXライブラリーの品質管理について

PDXの作製工程では、腫瘍組織を移植してもマウスの中で腫瘍が全く増殖しない場合もありますが、腫瘍組織内のリンパ球が増殖することによりリンパ球が腫瘍を形成する「リンパ腫置換」や、リンパ球が宿主(マウス)を攻撃する「移植片対宿主病 (GVHD)」といった移植関連リンパ球増殖性疾患(Xenograft-associated Lymphoproliferative Disorder, XALD)により、PDXの生着が阻まれる場合があります。また、マウス由来の腫瘍が増殖してしまう「マウス腫瘍置換」もPDXの生着を阻害する大きな要因です。J-PDXライブラリーのこれまでの経験では、リンパ腫置換は約12%で発生しており、特に胃がんや大腸がんなどの消化管腫瘍の検体で多く発生しています。

J-PDXライブラリーでは、リンパ腫置換やマウス腫瘍置換の除外を目的として、各継代時に病理ブロックを作製し、ヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色、ヒトCD45染色、ヒトミトコンドリア(COX-IV)染色を実施しています。リンパ腫置換された腫瘍ではヒトCD45染色陽性となります。また、マウス腫瘍置換された場合はヒトミトコンドリア染色が陰性となります。
継代移植の過程でのコンタミネーションや取り違えの除外を目的として、Short Tandem Repeat解析(STR解析)を実施しています。患者さんの正常DNAや腫瘍DNAと、PDX腫瘍のSTRを比較することで、J-PDXライブラリーの品質管理を行っています。

”リンパ腫・マウス腫瘍置換の評価と樹立過程でのコンタミの評価と予防図”

J-PDXライブラリーに保管されている試料形態・情報について

J-PDXライブラリーでは以下の試料と情報を保管しております。

区分 種別 備考
PDX試料 再移植用組織 不凍液に浸し-150℃保管
新鮮凍結組織 液体窒素による瞬間凍結後、-80℃保管
DNA 抽出後、-80℃保管
RNA 抽出後、-80℃保管
病理ブロック FFPE包埋、OCT包埋
解析情報 病理染色 HE、COXIV、CD45
STR解析 AmpFLSTR™ Identifiler™ Plus PCR Amplification Kit (ThermoFisher scientific)
遺伝子解析 パネル解析 (Oncomine Comprehensive Assay ver3)、全エクソン解析、全トランスクリプトーム解析など
PDX腫瘍の増殖曲線
PDXの薬物治療実験結果 一部のみ
臨床情報 年代、性別 個人情報に配慮して一部公開
検体の採取方法、検体の採取部位 個人情報に配慮して一部公開
がん種、組織型、初発/再発、TNM分類、病期、治療歴、治療効果、転帰など 個人情報に配慮して一部公開

情報の公開につきましては、個人情報に配慮し匿名化、要約データを公開しております。より詳細な情報につきましては、秘密保持契約のもとデータベース(J-PDX CATALOG)をご参照いただけます。詳細はこちらをご覧ください。

J-PDXライブラリーのご利用について

J-PDX試料のご利用にあたってのお願い

J-PDXライブラリーでは、患者さんからお預かりした試料と情報を適切に管理し、がん研究における科学性や利便性だけでなく、倫理性をも考慮したPDXモデルの開発・利活用を促進するため、「J-PDXライブラリーの取扱い及び利用に係る倫理ポリシー」を策定いたしました。詳細はこちらをご覧ください。

J-PDXライブラリーに保管されている試料は人由来試料として「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」に基づいた研究倫理審査と取り扱いを必須とさせていただいております。また、J-PDXライブラリーの試料と情報は、国立がん研究センターが管理者として外部機関との契約のもと「貸し出す」こととし、「分譲」は行っておりません。併せてご理解とご協力のほどよろしくお願い申し上げます。

J-PDX試料のご利用場所とお手続き

ご利用にあたっては、J-PDX試料を用いた実験をどこで行うかにより手続きが変わってまいります。お手続きに関するお問い合わせや、その他のご質問などはこちら(ncc_j-pdx_info(アットマーク)ml.res.ncc.go.jp)までご連絡ください。

①NCCとの共同研究により、NCCで実験を行う場合

NCCとの共同研究により、NCCで実験を行う場合には以下の流れでお手続きを進めて参ります。

  1. 秘密保持契約の締結
    秘密保持契約の雛形もございますので、お問合せください。
  2. J-PDXに関する情報開示と使用株の決定
    Web会議でモデルに関する情報の開示とご相談をさせていただきます。
  3. J-PDX運営委員会への使用申請
    PDXの使用に関するセンター内の申請、承認を経て使用可能となります。
  4. IRB申請
    研究内容によっては新たなIRB申請が不要な場合もございます。研究内容や使用方法をお伺いして決定させていただきます。
  5. 共同研究契約
    NCCと貴施設の共同研究契約を締結させていただきます。
  6. 実験開始

”Time

②NCCとの共同研究により、貴施設で実験を行う場合

NCCとの共同研究により、貴施設へPDXをお貸し出しして実験を行う場合には以下の流れでお手続きを進めて参ります。

  1. 秘密保持契約の締結
    秘密保持契約の雛形もございますので、お問合せください。
  2. J-PDXに関する情報開示と使用株の決定
    Web会議でモデルに関する情報の開示とご相談をさせていただきます。
  3. J-PDX運営委員会への使用申請
    PDXの使用に関するセンター内の申請、承認を経て使用可能となります。
  4. IRB申請
    NCC外へお貸し出しする場合には、必ずNCCでの倫理審査委員会の承認が必要となります。実験内容に基づき共同で研究計画書を作成させていただき、NCC-IRBへ提出、承認を取得いたします。この際、貴施設を含めた一括審査での対応も可能です。
  5. 共同研究契約
    NCCと貴施設の共同研究契約を締結させていただきます。
  6. MTA締結
    共同研究契約、倫理審査委員会の承認が得られたのち、PDX試料を貴施設へお送りさせていただきます。この際に物質移動合意書(MTA)を締結した上で試料を提供させていただきます。
  7. 実験開始
    貴施設で実験を行われる場合には、上記のお手続きの他、貴施設内での動物実験審査委員会の承認、遺伝子組み換え動物を使用するためのお手続き(遺伝子組み換え実験計画書の提出・承認)が必要な場合がございます。貴施設で必要なお手続きをご確認ください。

”貴施設内必要なお手続Time

③メディフォード株式会社への委託により実験を実施する場合

J-PDXライブラリーで樹立されたPDXモデルは、平行してメディフォード株式会社によりGLP施設内で維持管理が行われております。委託によりJ-PDXを用いた試験をご希望の場合には、メディフォード株式会社へお問い合わせください。

J-PDX試料のご利用にあたっての費用負担

J-PDXライブラリーは、AMED CiCLE事業や国立がん研究センターがん研究開発費、日本学術振興会 科学研究費助成事業などの公的資金、営利団体との共同研究費など、多くのご支援のもと事業を進めております。このため、J-PDXライブラリーによって創薬開発研究を加速させ、かつ公的なプラットフォームとして維持管理していくことを目的として、J-PDXライブラリーをご利用いただく研究者のみなさまへ一部費用負担をお願いしております。詳細につきましてはお問い合わせください。